基礎から学ぶ 楽しい疫学
基礎から学ぶ 楽しい疫学
中村 疫学とは疾病予防,寿命の延長,QOLの向上を目的に現状を変革して人々の健康を支える方法論であり,人間集団における健康状態とそれに関連する要因の分布を明らかにする学問だと私は考えています。
中村 疫学の原点は,英国の麻酔科医ジョン・スノウがコレラの発生源となる井戸を突き止めた1850年代にまでさかのぼります。ただしこの時代の疫学は記述疫学を中心とした観察疫学で,2つの集団間の疾病頻度の比である相対危険などの観察がなく,まだ科学的とは言えません。
川端 では,疫学の科学的な学問としての始まりはどこにあるのでしょうか。
中村 私自身は喫煙と肺がんの研究にあると踏んでいます。1964年に当時の米公衆衛生局長官Luther Terry氏が公表したレポート『Smoking and Health』は,7000編以上の文献から喫煙が肺がんやさまざまな疾病の原因であることを明らかにした重要な資料です。本レポートで因果関係を推定する時の,関連の一致性,強固性,特異性,時間性,整合性の5つの視点は疫学研究者は必ず身につけるべき視点です。
中村 サイエンスジャーナリストの立場から,川端先生がこれからの疫学に期待することを教えてください。
川端 疫学はありとあらゆる誤分類やバイアス,交絡因子に長年真正面から向き合ってきた学問です。私は疫学を思考スキームでもあると考えています。疫学を通じて,バイアスなどを考慮に入れて物事に向き合い物事を客観的に見て考える,疫学的思考が広まることを期待しています。
中村 これは何も医療者や研究者だけに求められる素養ではないですね。
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